「イクメン」などという言葉がメディアでもてはやされ、父親が子育てに参加することが多くなってきたと言われています。しかし、日本においてはまだ母親が子育てをするという意識が強いようです。そのため、お子さんに、発達障害の症状が出ると、周りからの批判は母親に向かいます。本来ならば、手を取り合わなければならない夫や祖父母すら発達障害が先天性のものであることを知らず、母親を家庭で孤立させるようなケースもあるようです。
「私の育て方のどこが悪かったのでしょうか」講演にやってきて、涙を流す方を私は何人も見てきました。さらに、日本における晩婚化と少子化が一人当たりの子どもへの周りの期待を高めて、母親のプレッシャーは、30~40年前とは比べものにならないのが現状ではないでしょうか。
私は子育てのキーワードは「多様性(diversity)」だと考えています。人間は、「違い(difference)があって当たり前なのです。一人ひとりの「違い」を認め、人間の「多様性」を尊重することでしか明るい未来は築けないのではないでしょうか。発達障害も「違い」の一つであり、悪いところだけでなく、良いところも見ながら本人も周りもその人を丸ごとありのままに受け入れるような文化をつくることこそ、私たちに課せられた課題だと思っています。
子どもの発達障害と寄り添うには、真正面から発達障害に向き合うことがまず必要になってきます。
親や教師から見て発達障害のある子どもは、「落ち着きがない」「だらしがない」「身の回りの整理整頓ができない」「不器用」「多動である」「衝動性がある」「人の話をきちんと聞けない」「自分の気持ちを言葉にできない」「友達を作ることができない」「空気が読めない」「すぐにキレる」などといった問題を抱えている子どもです。
LD(学習障害)、ADHK(注意欠陥多動性障害)、アスペルガー症候群、PDD(広汎性発達障害)などの「診断名」がついているかどうかは別として、「育てにくい」子どもであることには変わりはありません。親がいくら「育てにくさ」を感じていても、知能検査の数値が正常範囲内である場合、「親の愛情不足」「この時期の子供にはよくある状態」などと言われて、親の悩みを殆ど聞いてもらえない場合も多く、親にしてみれば、毎日の生活の中で不安を感じさせるような子供の様子に対して、「しつけの仕方が間違っていたのだろうか、甘やかし過ぎたのだろうか、育て方が悪かったのだろうか」と自分を責めている例が本当にたくさんあるのです。
母親が自分を責めて悩んでしまうのは、「周囲の理解のなさ」が一番の原因です。父親をはじめ、おじいちゃんやおばあちゃん、親戚たち、近所の人たちの「しつけができていない」という心無い言葉に打ちひしがれているお母さん方のいかに多いことでしょうか。
LDやADHA、アスペルガー症候群、PDDという発達障害の原因は、「脳の機能不全」です。この「脳の機能不全」に原因のある「適応行動」の崩れが、育てにくさの正体なのです。ここを理解することにより、お母さんの苦労が周りの人に見えてくるようになるはずです。 「これまであなたは本当に頑張ってきたわね。この子はいい子よ。応戦するから一緒にやっていきましょう」というやさしい言葉が周りから湧き上がってくるようになるはずです。
人間の成長とは、単なる年齢の積み重ねだけでなく、その時々の課題を超えていくことによって促されるものです。したがって親は年齢に応じた発達課題とその課題を乗り越えるための支援のポイントを知ることが大切です。これは発達障害を抱えているかどうかにかかわらず、すべてのお子さんに共通することだと思っています。
幼児期の最も大切な課題は、規則正しい生活習慣を身につけることです。一緒に体を使って遊ぶことや言葉による簡単なコミュニケーションを積極的に行うことで、あなたのアドバイスが子どもに受け入れやすくなります。
小学校では、学校に通い、社会のルールを守ることを覚えること、基礎学力を養うことが課題です。うまくできないことがあれば、その子の特性に合わせて「どうやったら、できるのか」を考えてください。中学校は、アイデンティティを確立し始めることが課題です。得意なことに目を向かせて自信をつけさせてください。
そして、高校・大学になれば、社会に出ることを想定して自立に向けて自分で学び、自分の将来についても考えるようになることが課題です。押しつけにならないように気をつけながらも、どのような進路や就職先があるのか情報を集めるなど、自立のために支援をしてあげてください。